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Book Review

腸と森の「土」を育てる
微生物が健康にする人と環境

著者:桐村里紗

出版社:光文社新書

世界的に権威のある医学雑誌『ランセット』は2015年、“プラネタリーヘルス”を発表した。「人と地球は相互依存関係にあり、人を含めた地球全体の健康を実現する」という意味のコンセプトだ。

私たちは、新型ウイルスのパンデミックを経験し、病んだ環境の中では、心身の健康を保つことが難しいということを思い知らされた。そんな今の私たちにとって、人の健康と地球の健康が相互に依存しているというのは、容易に理解できるコンセプトなのではないだろうか。

本書は、予防医療、生活習慣病、終末期医療など幅広い診察経験を積んだ内科医である筆者が、人の健康にとっての腸内細菌と、森(環境)の健康にとっての土壌との相関を示しながら、プラネタリーヘルスをわかりやすく解説している。また、食と環境問題の関連や、具体的な食の選択のノウハウなど、幅広い内容をカバーしているのも特徴だ。

病変や肉体の損傷など、どちらかというと「部分の最適化」を得意とする西洋医学を学んだ医師でありながら、「全体の最適化」を目指すプラネタリーヘルスを説いているところに、著者の視点の高さがうかがえる。

地球環境の持続性の危うさが、徐々に信憑性を帯びてきている。煽るつもりはないが、このまま放置すればやがて後戻りできない事態に発展する可能性がある。もしかすると地球と人類の未来は、どれだけの人間がこのことを真剣に受けとめ、環境を守る行動を起こすかにかかっているかもしれない。

本書は、そんな行動を起こすきっかけになり得る一冊だ。

文 / 井澤裕子

【目次】

  • 第1章 人は森であり、腸内に土を持つ
  • 第2章 消化管で人は自然とつながっている
  • 第3章 腸内の土の悪化が、心身にもたらす病
  • 第4章 食と農業の選択で、土の未来を変える
  • 第5章 微生物で接続する、腸と土、人と自然