食の未来を守りたいなら、知っておくべき種子の話
「主要農作物種子法(以下種子法)」が2017年、突然廃止になり、種子に携わる人たちの間で物議を醸した。
第二次世界大戦後の食糧難を背景にできた種子法。国民の食糧を生産する農家に、米、麦、大豆という主要農作物の優良な種子が行き渡るように、国が責任を持って種子の生産と安定供給を行うことを決めた法律だ。これによって各都道府県は、国からその任務を委託され、それぞれの地域の種子を守ってきた。一般消費者にはあまり馴染みがないものの、国民の食糧の安定供給をささえる重要な法律だったのだ。この種子法廃止の理由は何なのか。種子法の廃止によって日本の農業にはどのような影響があるのか。
一方、「知的財産権」の考えが農業の世界にも浸透し、日本でも1998年に知的財産法である種苗法ができている。種子の開発者の権利を守ることを目的とする種苗法だが、種子法が無くなったということは、国が、種子の開発や管理を民間企業に委ねる方向に舵を切ったことを意味する。それによって起こりうる、多国籍企業による市場の独占を心配する声も多い一方で、日本の種子メーカーにとっても、アフリカやアセアン諸国へ向けた種子の輸出の商機という見方もある。日本も囲い込む側に回りたいということだ。
種子を知的財産とし投資対象とする動きと、誰もが使える人類共通の財産として守ろうという動き。世界各地でこの2つのせめぎ合いが続いているのが現状だ。
本書では、奈良県のたね屋に生まれたバックグランドを持ち、農村開発・農業生物多様性管理などを専門とする農学博士である西川氏が、種子法について、種苗法との違い、農民の権利、種子をめぐる世界的な動き、生物多様性を守る必要性と持続可能な社会に向けてできることは何か、など、種の問題をさまざまな角度から丁寧に解説している。
文 / 井澤裕子
【目次】
序 章:種子法の廃止が農の営みに与える影響
第1章:種子法の制定背景と意義
第2章:国際条約と種子システムにおける位置付け
第3章:ジーンバンクと農家圃場の遺伝資源保全
第4章:農業・農村開発の考え方と農民の権利
第5章:知的財産権の強化と多国籍企業による種子の囲い込み
第6章:品種と種子に関する日本の議論
第7章:種子法に支えられた素敵な品種たちの誕生物語
第8章:野菜の種子を守る自治体のユニークな取り組み
第9章:海外の農民主体の品種育成と在来品種の保全
第10章:種子を公共財として守るために
終 章:持続可能な世界のための多様な種子システム