未来の食を考えるウェブメディア
Book Review

農業消滅
農政の失敗がまねく国家存亡の危機

著者:鈴木宣弘

出版社:株式会社平凡社

このタイトルを見て、恐ろしいと感じない人は要注意!

「農業が成り立たないなら、食料は輸入したらいいんじゃない?」などと思っていないだろうか?

 「食料自給率が低い」と言われ続けているが、その意味を考えることなく、海外から入ってくる安い食料を喜んで買いつつ、日本の「食」は素晴らしい、と信じ込まされている。それが日本の大多数の消費者の実態ではないだろうか。

 気候変動や人口爆発、パンデミック、政情の変化などで、食料や食料を作るための肥料、飼料が入ってこなくなる状況は予想よりずっと簡単に起こりそうだ。あるいは、先進国の飽食を飢餓に苦しむ最貧国の労働が支えている現状のシステムが限界を迎える日がくるかもしれない。そうなった時、自国で食糧を確保できない日本はどうなってしまうのか。食糧は防衛やエネルギーと並んで、国民を守る安全保障の要だというのに、まずい国政によって、食の安全保証がないがしろにされているのではないだろうか。

 自給率の低さに拍車をかけてきたのが、貿易の自由化だ。国は長らく「日本の農業は過保護にされ過ぎている。関税を下げれば国際競争力が上がり、輸出も増え自給率も上がる」と言い続けてきた。ところが、関税を引き下げ、自由貿易を推し進めた結果が農家の減少と自給率のさらなる低下という事実だ。

 日本以外の先進国が、日本よりもずっと自国の農業を保護していることをこの本で知った。日本の低い関税率、農家の所得への補助金の少なさ、農業生産額に占める国の農業予算の少なさ、所得が減った時のセーフティネットの脆弱さ…そういったことがこの本にはデータを解説しつつ具体的に書かれており、大変参考になった。

 さらに、農薬や食品添加物、抗生剤の使用食品への規制の緩さや、遺伝子組み換えやゲノム編集への対応に関しても問題が多く、危機感が強まった。

 食の様々な問題について関心を持つきっかけに、この本をぜひ読んでいただきたい。賢い消費者になることが、日本の食の未来を救うことにつながるはずだ。

文 / 井澤裕子

【目次】

序章  飢餓は他人事ではない

第1章 2008年の教訓は生かされない

第2章 種を制するものは世界を制す

第3章 自由化と買い叩きにあう日本の農業

第4章 危ない食料は日本向け

第5章 安全保障の要としての国家戦略の欠如

終章  日本の未来は守れるか