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協生農法

桐村里紗さんに聞く、協生農法®事例「ガイナーレ鳥取圃場」

山陰地方における協生農法の社会実装第1号は、鳥取県のJリーグサッカークラブ、ガイナーレ鳥取のスタジアム横の圃場だ。ここで協生農法を実践している医師でtenrai株式会社代表取締役の桐村里紗さんに、始めた理由や、実践されてみての感想などを伺った。

桐村さんは、プラネタリーヘルスについて書いた書籍『腸と森の「土」を育てる』の執筆中に、ソニーCSLの舩橋さんが考案し取り組まれている協生農法を知った。人類の持続可能な未来を切り拓く農業としてベストな方法論だと思い、ガイナーレ鳥取の協力の元ご自分で始めてみたそうだ。

※「協生農法」は株式会社桜自然塾の登録商標です。

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草1本生えない砂地を豊かな圃場に。

ガイナーレ鳥取の圃場がある米子市のこの地域は半島全体が砂地で、圃場がある場所も元々は砂丘だった場所。近くを流れる日野川の上流は昔、蹈鞴(たたら)があった場所で、砂鉄を取った後の大量の排砂を日野川に流していたためだ。下の写真のように、草1本生えない砂地・荒地に150種類以上の種と苗を導入し、協生農法を始めたのが1年半前。現在では、様々な野菜や果樹、ハーブ、雑草などが混生密生する圃場となっており、作物も順調に収穫できている。

元は草も生えない砂地だった
1年半後。さまざまな植物が混生密生している

トライ・アンド・エラーを繰り返し…

桐村さんには、それまで野菜栽培の経験はなかった。ソニーCSLの方々の指導を仰ぎつつ、トライアンドエラーを繰り返したそうだ。

まずは、植物が表土を覆い尽くすようにして土を作ることに専念。はじめは、なかなか作物の収量は増えないが、生物多様性が豊かになり土壌ができてくれば、だんだん収量も増えてくるという。作業自体はそれほど大変ではなく、仕事などで畑の手入れができない日が続いても大丈夫、というのが実践者としての感想のようだ。

人と環境の切っても切れない関係

予防医学を専門にされている医師として、協生農法に期待することをお聞きしてみた。

「人と環境は切っても切れない関係。繋がっているという視点を持ち、環境を良くしなければ病気を予防できないし、病気を治すこともできません。人の健康にとって腸内環境が重要なのと同じように、地球にとっては土が大事です。そういう意味で協生農法は生物多様性を豊かに拡張しながら土壌を回復させるベストな方法だと思います。また協生農法でできる多種多様な作物を食べることで、腸内細菌の多様性が高まり、腸のさまざまな機能をアップさせられるはずです。」

単一栽培の慣行農法など既存の農法に比べると、同じ品種の作物をたくさん収穫することはできないため、一般の流通には乗らない。でも、それは本来の目的ではない。多様な品種を育てながら、生態系をより豊かに拡張し、環境を回復しながら、自分の健康にも良い作用をもたらす。実践することでの心の豊かさが得られる点も大きい。家庭菜園やコミュニティ農園などを中心に実践者が増えるといい、と話してくれた。

雪に覆われる冬の圃場で1.5キロのキャベツを収穫した桐村里紗先生

取材・文 / 井澤裕子

<桐村里紗さんプロフィール>

内科医・tenrai株式会社代表取締役。予防医学、生活習慣病から終末期医療まで幅広く診察経験を積む。食や農業、環境問題への洞察をもとに人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルスケア」に関する情報を発信している。 最近の活動として、鳥取県江府町をプラネタリーヘルスの町として開発するプロジェクトが進行中だ。
著書に『腸と森の「土」を育てるー微生物が健康にする人と環境』、『日本人はなぜ臭いといわれるのかー体臭と口臭の科学』がある