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GYRE.FOOD bonélan(ボネラン)

循環がテーマのGYRE.FOOD。
信太シェフが語る「地球の環境を守るために自分にできること」

東京表参道にあるファッション複合ビル、GYRE(ジャイル)。コンセプトの「SHOP&THINK」には、「人が生まれてから死ぬまでの消費活動の循環(SHOP)と、来館者ひとりひとりが考えながら体験したり行動する(THINK)」という意味が込められています。

What To Eat? 編集の私としては、「そのコンセプトのGYREでは、レストランはどんな感じなの?」と興味が湧きました。

食のフロアGYRE.FOOD(ジャイルフード)のテーマは循環。「さまざまなものが土から生まれ、土に還っていく。その普遍的なサイクルを大切にしながら、明日につながる食文化の“体験”を提供する」−−−−それがGYRE.FOODです。

SDGsの認知の広まりによって、環境に配慮するという意識は以前より高まっていると思いますが、実際の行動として何をしているかと問われたら、「エコバッグは持ち歩いています」くらいの人も案外多いのではないかな…などと考えつつ、ふらりと入ったGYRE.FOODのレストランの1つbonélan(ボネラン)で、信太竜馬(しだりょうま)シェフにお話を聞く機会に恵まれました。

銀座ESqUISSE(エスキス)のスーシェフとして腕をみがいてきた信太シェフ。現在はGYRE.FOODの3つのレストラン、élan (エラン)、bonélan(ボネラン)、uni(ユニ)のオーナーシェフでありGYRE.FOOD全体のディレクションも担当されています。

GYRE.FOOD全体のフードディレクションを担当されている信太龍馬シェフ

まず、フードロスについてお聞きしました。

信太シェフ:例えば、肉料理には、その骨からとったフォン(=出汁)で作ったソースを合わせる、という具合に、フレンチはもともとフードロスを出さない料理体系だと思います。フレンチの礎を作った人たちは、優れた料理人であると同時に優秀な経営者でした。ゴミをださない、無駄を無くすということは、環境にいいだけでなく、健全な経営にも必要なことです。

なるほど理にかなっていますね。でも、例えば臓物など高級フレンチでは使われない肉の部位などが、どうしても出るのではないでしょうか?

信太シェフ:ここの厨房は、実は隣のélanと共用なのです。例えばチキンの場合、ガストロノミーレストランという位置付けのélanでは胸肉は使いますが、もも肉は使いません。しかし、カジュアルなbonélanでは、もも肉も立派な一品になってみなさまに喜んでいただける。厨房を共用にすることで、食材を無駄にせず丸ごとを使いわけることができます。フランスでは、このように高級フレンチとカジュアルなビストロが一緒になっている店を見かけます。

次に、フードロスより少し枠を広げ、環境問題に関する取り組みについて伺いました。

信太シェフ:環境問題、食料自給率の問題、農家の減少、水産資源問題など、問題は多々ありますが、それぞれの問題があまりにも大きく、私のような料理人一人の力では限りがあります。もちろん、そういった取り組みには積極的ですが、今の自分たちにできることは何かと考え、渋谷区に協力いただきながら、子どもの食育を目的とした料理教室を企画し、月2回行っています。近隣のお子さんたちを招いて、店の厨房を使いお菓子作りや魚の捌き方などを体験してもらっています。

実際のレストランの厨房で、ですか? それはすごいですね!お子さんたちにも貴重な体験になりますね。

信太シェフ:はい。普段の食事の食材が、どこで作られ、どんな形でスーパーに並び、どのような工程を経て食卓に並ぶのか、子どもたちに知ってほしいのです。昆布と鰹で出汁を引き味噌汁を作る、ぬか床に野菜を入れてぬか漬けを作るなど、料理がどのようにできるのかを体験してもらっています。

近隣のお子さんたちを招いた料理教室

それは、次世代を担う子どもたちに、興味をもってもらうという意味ですか?

信太シェフ:「食」を取り巻く環境問題について、一部の人は取り組んでいても、まだまだ目下の課題と捉えられていない場合も多くあるのではないでしょうか。人々の意識が大きなうねりになってはじめて変わっていく。そして、変えていく中では、選択する知識が必要になります。私たちは、未来を作っていく子どもたちに、今のうちから口に運ぶものへの興味をもってもらう取り組みを選んだのです。

確かに、未来の食をどうするか、これからの人たちの食に対する意識で大きく違ってくるかもしれませんね。

このあとも、食を取り巻く話は広範囲に及び、信太シェフの環境問題についての知識の深さと、ご自分の立ち位置で真摯に向き合う姿勢を感じました。

最後に、最近よく耳にする都市の屋上菜園の話になりました。

GYRE.FOODにも小さなハーブガーデンがあり、レストランからの端野菜などを使って土作りをしているそうです。ただ、地面に作物を作るのに比べて人の手や費用がかかるなど課題も多いのだとか。

「実は、都市でできることとして養蜂がいいのではないかと思っているのです。」

そう聞いて驚きましたが、確かに都心でミツバチを飼う「都市養蜂」がここ10年ほどで全国に広がっているようです。東京の銀座周辺で言えば、築地の桜、浜離宮の菜の花や皇居内堀のユリノキなど、ミツバチの蜜源は豊富にあり、しかも人の健康や環境への配慮から農薬が使われていないことが多いので、ミツバチにとって良い環境なのだそうです。

大きい規模で環境問題を知ることも必要だけれど、自分の置かれている環境の中で、現実的にできることを見つけていくことも大事だと、改めて気付かせていただいたインタビューでした。

アポイントメントもなしに突然お邪魔した私に、1時間近くも時間を割いてお話してくださったシェフに改めてお礼申し上げます。この日はこのあと、コンソメスープにサラダ、「長谷川さんのフレッシュマッシュルームとキヌア」、「フランス産仔鴨のロティ ジュのソース」などいただきました。コンソメはホロホロ鳥と端野菜で作るので、日によって味が変わるそうです。どの料理も絶品。店内のパン工房で焼かれたパンも、パンに添えられたデュッカスパイスもとても美味しくいただきました。

前菜:長谷川さんのフレッシュマッシュルームとキヌア
メイン:フランス産仔鴨のロティ ジュのソース

みなさまもぜひ、「循環」をテーマにしたGYRE.FOODで、地球環境に思いを馳せながら、季節の恵みを感じる料理を堪能してみてください。

bonélanの店内

取材・文 / 井澤裕子

GYRE.FOOD bonélan(ボネラン)

東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 4F

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