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株式会社MISOVATION

味蕾の研究から、未来の食の開発へ!味噌汁で世界の予防医療にイノベーションを起こす「MISOVATION」とは?

MISOVATION

株式会社MISOVATIONは、「味噌汁で世界の予防医療にイノベーションを起こす」というビジョンを掲げ、2021年3月に設立されたフードテックカンパニー。

代表の斉藤は、東京農大で栄養学を学んだ栄養士だ。

栄養士でありながら仕事中心の生活の中で自ら体調を崩してしまった経験から、より手軽で健康的な食事を模索する中で、日本の伝統食「味噌汁」に着目。世界初の完全食味噌汁「MISOVATION」を開発した。

2021年1月、Makuakeでのテスト販売では、目標金額の374%を達成。同年5月には、211社の応募から9社が選抜された「JAアクセラレーター 第3期」に採択され、開発が一気に加速。2021年10月31日よりサブスクリプションサービスとして、公式サイトでの「MISOVATION」の販売をスタートした。

※JAアクセラレーター:革新的なアイデアや技術を持ったスタートアップ企業を選抜して、短期間で集中的に成長を支援するプログラム。JAグループ、 JA全農、農林中央金庫が6か月間、さまざまな形で伴走支援を行う。

株式会社MISOVATIONがオフィスを構える東京・八重洲のインキュベーション施設「xBridge-Tokyo」にて、斉藤悠斗代表に話を伺った。

「うま味」は、誰でも感じることができるのか?

東京農大を卒業されているんですね

斉藤:はい、東京農大の応用生物科学部、栄養科学科を卒業しています。

栄養科学科を選ばれた理由は、何かあるのですか?

斉藤:私は九州の宮崎県出身なのですが、エンタメもあまりない土地柄なので、幼少期は「食べること」が、一番楽しいことでした。

それと、一緒に暮らしていた祖父が認知症になってしまい、中学高校の間はずっと祖父の介護をしていました。

祖父の認知症で病気の恐ろしさを知って、大好きな「食」と「病気」を結びつけるものとして「栄養学」に興味を持ちました。

大学時代に、うま味に関連する研究をされていたそうですが、どのような研究をされていたのですか?

斉藤:私の担当教授が、味の素出身の方で、うま味(アミノ酸)の学会にも出られている教授だったのですが、その先生の元で「うま味の臨界期」の研究をしていました。

株式会社MISOVATION 代表取締役 斉藤 悠斗さん

どのような研究なのですか?

斉藤:人間の体は、受精卵が分裂して細胞が増えていって、手とか足とか、色々な器官が作られるのですが、細胞分裂の過程で、なんらかの刺激が加わると、その刺激によって、細胞の機能が分化していきます。この刺激が加わる時期のことを臨界期と言います。

例えば、視覚においては、生まれて光があたることで視覚が生まれるんですが、視覚の臨界期は生後すぐ、と言われています。

うま味の感受性にも臨界期があるのではないか、という研究です。

うま味の研究と言っても、味覚のセンサーの研究なのですね

斉藤:はい、そうなんです。

仮説ですが、うま味は、幼少期に特定の刺激を入れないと、感じる人と感じない人に分かれるのではないか、という説があります。

例えば、アメリカでは出汁文化がないので、「うま味」を食べても「しょっぱい」と表現する人がいます。「UMAMI」という言葉は、アメリカでも浸透しているのですが、実は「うま味」と「塩味」を区別できない人がいるのではないか、とも言われています。

そこで、生まれたてのラットに、うま味(MSG:グルタミン酸ナトリウム)を溶かした水を与えた群と与えない群を作って、それらのネズミが大きくなった時に、うま味を溶かした水と普通の水、どちらを好むか、というのを調べる実験を行いました。

なおかつ、そのラットの舌にうま味をキャッチするレセプター(味蕾)ができているかどうかも確認しました。

どのような結果になりましたか?

斉藤:この実験は、3年ぐらい続けましたが、残念ながら私たちの代では十分な有意差は確認できませんでした。ただ、私たちの次の代では、ある程度の有意差が確認されて「臨界期はありそう」というレベルの結果にはなったようです。

カゴメでの経験で得られたもの

大学卒業後はカゴメに入社されたそうですが、どんな仕事をされていたのですか?

斉藤:野菜ジュースやケチャップなどの小売店、スーパー向けの営業です。栄養士としてメニュー提案をしたり、健康を軸にした売り場の提案をしたり、といった仕事が中心です。

その他、京都の野菜消費量を増やそうというプロジェクトなど、新規事業にも関わる機会がありました。

斉藤さんにぴったりの仕事ですね。それでも起業に舵を切られた理由は?

斉藤:野菜を摂る大切さ、病気になる前の食生活の大切さをマスに広げていきたいという気持ちがあって就職したのですが、やりたいことをやれるポジションに行けるまでに時間がかかりそうだと感じたというのが本音です。

自分でやってしまった方が早い、と思ったのです。

カゴメでの経験が、起業に役立った部分はありますか?

斉藤:実際に食品メーカーで働いてみて、「本当にいいものが売れるとは限らない」と痛感しました。

カゴメの場合、野菜ジュースやケチャップなどが主力商品なのですが、実は、他にもたくさんの商品を出しています。

例えば、すごく純度の高いコールドプレスに近いジュース、今で言うところのジュースクレンズのような商品など、高付加価値型の商品もたくさんリリースしているのですが、ほとんどの商品は消えていっています。

スーパーのバイヤーさんにとっては、ケチャップをいかに100円以下で売るかといった商談のほうが重要なようです。

いいものを届けるためには、小売店を挟むと難しいと感じました。それで、今、直接D2Cでやり始めたわけです。

食育こそが重要

いいものが売れるとは限らない理由は何だと思いますか?

斉藤:理由は、2つあると思います。

一つは、消費者が、そこまでそれを求めていない、という点です。

私は、既存の栄養食や完全栄養食といった商品のユーザー50人以上にインタビューをしているのですが、購入理由について聞くと、栄養価については、実はそれほど重視していないことがわかります。

それよりも「手軽に食事を済ませられそう」とか、単純に「安いから」といった理由が多いのです。栄養価や添加物の内容よりも、時短や価格の方に価値を感じているのです。

この状況を変えるためには、私は食育が大切だと考えています。

完全栄養食として販売されている、ある商品について、興味深いデータが得られています。

その商品をリピートし続けている人と、やめてしまった人の属性で、特徴的な違いがあることがわかりました。それは、幼少期の食体験が豊かだったかどうか、という点です。

「小さい頃にお母さんとパン作りをしていた」とか「家族全員が揃って食事をしていた」という人は、その商品を継続できずにやめていて、逆に「孤食だった」「家に帰ると食卓に1,000円札が置いてあって、コンビニで買ってね、と書いてあった」というような人の場合は、問題なく継続しています。

幼少期の食体験が豊かだった人は、いくら栄養があっても、「美味しい」と心から思えないものは継続できない、ということです。

いいものを売るためには、食育から変えないとダメだな、と思いました。

もう一つの理由は、小売店にはマスに売れるものしか流れない、という仕組みにあります。大手食品メーカーは、スーパーと売上額に関して契約を結んでいて、ニッチだけど特定の層にメチャクチャ刺さるような商品は、小売店に流れにくい状況になっています。

この仕組みを変えることも必要だと感じています。

ただ、最終的に商品を選んでいるのは消費者ですので、ここでもやはり「食育」の重要性というものが絡んできます。

豚汁なのか?味噌汁なのか?

その後、リクルートを経て、Makuakeでのテスト販売の後に起業、という流れでしょうか?

斉藤:はい、そうです。Makuakeの時は、まだ会社員でした。1,000円という価格で、美味しく栄養を摂れる商品が本当に売れるかどうか確かめたくてトライしました。

Makuakeで販売された商品は「豚汁」だったようですが、その後、味噌汁に変更されたということですか?

斉藤:実は、中身はほとんど変わっていないんです。

この商品を「豚汁」と呼んだ場合、「違うんじゃないか?」と思われる方が多かったのです。「豚汁にはブロッコリー入れないよね」といった具合に。

人々が考える豚汁のイメージって、おそらく5パターンくらいしかないと思いますが、味噌汁だったら100パターンくらいあるじゃないですか。

味噌汁だったら「ブロッコリー入れるのもあり」となるんです。

Makuakeの「豚汁」と現在の商品は、同じものなんですね。

斉藤:ほぼ一緒です。言い方を変えただけなんです。現在も豚肉も入ってますし。

15種具材の完全栄養スープ「MISOVATION」

味噌汁のような形でいこうというアイディアは、何かきっかけがあったのですか?

斉藤:方向性として「手軽に栄養を摂れるもの」というのはずっと考えていました。スムージーやサラダなども検討したのですが、だいたい調べると競合商品がある。

まだ誰もやっていないものはないかと思っていた時に、ツイッターで「味噌汁は完全食だ」っていうツイートが流れてきて、「確かに!」と思ったのです。

でも、実際に味噌汁を完全栄養食にした人って、まだいなかったんですよ。

で、実際にレシピを組んでみたら「いけんるんじゃないか」と思えたのです。

正確には覚えていないのですが、確か「一汁一菜」の土井善晴先生関連のツイートだったような気がします。

※土井善晴:料理研究家。著書に「一汁一菜でよいという提案」(グラフィック社)がある。政府の食品ロス削減推進会議委員で、具だくさんのみそ汁を中心とした一汁一菜の食事を提唱。2020年3月に閣議決定された「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」に、「一汁一菜」の食事が盛り込まれた。

MISOVATIONのような商品は、他にないのでしょうか?

斉藤:一度調理された味噌汁や豚汁を冷凍した商品はあるんですが、MISOVATIONの場合は、味噌汁にする前の具材を瞬間冷凍したミールキットのような形でお届けしています。

袋を開けると、味噌と野菜がそのままごろごろ入っています。こういう形の味噌汁は、他には無いと思います。

MISOVATIONのパッケージ。「和」を感じさせる七宝柄が採用されている。
味噌や野菜などが瞬間冷凍された具材。調理する際、水を150cc入れて電子レンジで加熱する。

調理する場合は、水を加えるんですね。

斉藤:はい、水を入れて、レンチンします。

だから、加熱に弱い栄養素や加熱によって失われる味噌の風味、野菜の食感などが残るのです。

冷凍する前に、少しは火を通しているのですか?

斉藤:はい、ブランチングはしています。

※ブランチング:野菜を冷凍する前に、熱湯に漬けたり、蒸気をあてたりと必要最低限の加熱処理を行うこと。

フリーズドライではなく、冷凍を選ばれたのは、やはり食感のためですか?

斉藤:食感もありますが、具材の大きさも重視しました。フリーズドライだと、この大きさを出せません。口に運んだ時の満足感が違うので、冷凍しかないと思いました。

めくるめく味噌ワールドへ、ようこそ

味噌は、いろんな所から調達されているんですか?

斉藤:はい、現在、17箇所の味噌蔵さんと提携していて、毎月、仕入れ先を変えています。

毎月、味噌を変えるのは、なぜでしょうか?

斉藤:お客さまに、飽きずに食べていただきたいということもあるんですが、それ以上に、いろいろな地域の味噌を知ってほしいという思いがあります。

味噌は、日本酒以上に地域によって味の違いが大きいのです。

MISOVATIONで使っている味噌は、ほとんど一般流通で流れないような味噌です。無添加で、店頭に置いておくと発酵が進んで色が変わってしまうから、スーパーには置けないんです。その地域の小売店でしか買えない。

江戸時代に創業された蔵など、歴史がある味噌でも、意外と流通していないものは多いのです。

そういう日本の味噌の世界の奥深さを体験していただきたいという考えで、月替わりで、いろいろな地域の味噌を使っています。

日本各地の味噌蔵の味を、毎月、月替わりで楽しめる。

興味が湧いてきました(笑)どんなラインナップなのですか?

斉藤:例えば、宮古島の宮古みそっていうのは、すごく珍しいです。マルキヨ味噌さんという、宮古島の天然麹菌を使っている唯一の味噌蔵さんです。

知名度でいくと、山梨の五味醤油さんなんかは、東京農大の先輩がやっていて、すごく発信されているので、発酵界隈では有名です。

あと、信州の新田醸造さんは、クラシルで人事をやられていた方が継いだ味噌蔵さんで、スタートアップ界隈では有名だったりとか。

有名と言っても、一般流通には出てこないようなニッチな味噌蔵さんをピックアップしていますので、楽しんでいただけると思います。

出汁は、どのようなものを使っていますか?

斉藤:煮干しと昆布と鰹節を使っています。あと椎茸の粉末も入れています。

グルタミン酸とイノシン酸とグアニル酸で、うま味の相乗効果を楽しめるようにしています。

鰹節は、枯節(かれぶし)と言って、カビ付けをして発酵させた鰹節を使っています。京都の高級料亭などで使われる鰹節で、枯れ木のように見えるから枯節って呼ばれるそうです。

野菜は何種類入っていますか?

斉藤:野菜は8種類です。「ブロッコリー」「大根」「揚げなす」「パリジャンキャロット」「椎茸」「ごぼう」「かぼちゃ」「こまつな」です。すべて、旬の時期に冷凍したものを使用しています。

パリジャンキャロットは、欧州産の丸い人参で、にんじん嫌いの子供でも食べれるくらい、すごく甘い人参です。

さらに、蒸し豚バラ肉(熊本製造)、豆腐、甘酒、さきほどの出汁4種類を加えて、原材料は全15種類になります。

すごくボリュームがありますね。これだけで1回分の食事、ということですか?

斉藤:お客さんによっては、これを二人で分けて食べられている方もいます。

かなりボリュームはありますが、カロリーは250kcalしかありません。

ダイエットをされている方で、置き換えダイエット食として、これを1回の食事にしている方が多いです。

これだけを食べても、1日に必要な栄養素の3分の1の栄養がバランスよく摂れるように設計してあります。

塩分についてはどうですか?

斉藤:塩分も、1日の摂取基準の3分の1の量に抑えていますので、これを3回食べても1日の許容量を超えないようにしています(約2.2グラム)。

出汁を強めに効かせることで、減塩に成功しています。

味噌汁の塩分については、共立女子大学の研究で、味噌の成分中に、血圧を下げる成分、腎臓から塩分を排出する成分が含まれていて、味噌汁を飲むことで高血圧になることはない、むしろ血管年齢を改善させる傾向がある、という研究も発表されています。

<参考>
「味噌は血圧を上げる」のウソ。味噌の血圧上昇抑制効果(マルコメの研究開発)
https://www.marukome.co.jp/rd/result03/

大好きなみそ汁 我慢しなくても大丈夫
共立女子大学教授 上原 誉志夫、みそ汁の塩分が血圧に影響しないことを発表
(1日1杯のみそ汁のある食生活が血管年齢を10歳程度改善する傾向も確認)
https://www.atpress.ne.jp/news/40356

味噌汁で世界の予防医療に挑戦!

ターゲットはどのあたりになりますか?

斉藤:継続して買ってくれている方は、40代〜60代が中心になっています。

実は、もともと、20代〜30代の忙しいビジネスマン、栄養が偏りがちな人をターゲットとして想定していたのですが、その層では1回買って終わってしまう方が多くて、継続してもらうのが難しいです。

40代〜60代のユーザーは、完全栄養食とか細かいことはわからないけど、体に良さそうだし、美味しいから続けてます、という方が多いです。

やはり50代くらいになると、体のことが本当に心配になってきますからね

斉藤:そうですね。今は、この層によりアピールすることで、既存の完全食とは違う路線で、差別化ができるんじゃないかと考えています。

その世代だと、幼少期に毎日味噌汁を飲んでいた人も多いのでは?

斉藤:まさに臨界期ですね(笑)。

一方で、味噌汁は地域に根ざした文化なので、幼少期から食べている人ほど、自分にとっての味噌汁の味というものがあって、MISOVATIONのように煮干しを効かせた味には違和感がある、と感じる方もいらっしゃいます。

また、MISOVATIONは、豆乳とか牛乳で割ってポタージュとしても楽しめるのですが、そちらの方が好きだという方もいらっしゃって、この人たちは「味噌汁が大好き」という層とはまた違う人たちです。

バックグラウンドの違いによって、嗜好が大きく異なりますので、ミドルシニア層の攻略の難しさも感じています。

若い人にとっては、価格もハードルになっているかもしれませんね。

斉藤さん:おっしゃる通りです。現在、例えばフリーズドライを使うなどして、より安価で、気軽に購入できる、若い層向けの商品の企画も考え始めています。

海外への輸出も考えられていますか?

斉藤さん:はい、海外進出は、当初から視野に入れています。実は、ちょうど1週間後、ビッグサイトで開かれる輸出向けの展示会に出展します。和食への関心も高いですし、可能性はあると考えています。

それは、ますます楽しみですね。本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

取材・文 / 井澤博

株式会社MISOVATION

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