そのとき、日本は3000万人しか養えない、という衝撃。
「そのとき」というのは、石油の供給が止まった時、のことである。
食料自給率が低いことはわかっているが、人口の1/4しか養えないというのはやはり、ショックな数字だ。
「食料やエネルギーの輸入ができなくなった場合、日本はどれだけの人口を養えるのか」という問題を検証したレポートが2003年に発表されている。本書は、そのレポートをまとめた本人である著者が、最新の情報を踏まえてまとめ直した書籍である。近代農業、自給率、経済、環境問題などさまざまな角度から検証しており、これからの食料安全保障を考える上で参考になる。
石油をはじめとする化石燃料が無尽蔵ではなく、枯渇する日がもうすぐ来る…という懸念が広がったのは、オイルショックがあった1970年代に遡る。その後、新たな資源の発見や技術の進歩により、石油に依存する社会の延命が続き、枯渇の恐れは薄らいでいる。しかし、石油の供給が止まる危険は必ずしも資源の枯渇だけではないことが、この度のウクライナ 危機による天然資源の供給不足が証明している。
なぜ、石油が止まると食料がなくなるのか。それは、食料の生産が大きく石油に依存しているからだ。農業機器や輸送のためにガソリンのだけの話ではない。一番の問題は石油から作る化学肥料だ。石油がなければ安価な化学肥料はできず、現在のように大量の食料を生産することは難しいらしい。
ここまで石油に頼った社会をリードしてきたのは、アメリカのペトロダラーによるシステムだが、そのシステム自体終焉に向かっていると見えなくもない。
世界的に石油の供給が滞れば各国共に食糧不足に陥る。そうなると、食料が生産できなければ輸入すればいい、という考えはもはや通用しない。
石油が無ければ、日本が養える人口は3000万人。これは鎖国により100%自給だった江戸時代に養えていた人口に匹敵するらしい。「科学技術が発達したといっても、人類は石油の使い方が上手くなっただけなのではないか」と筆者は言う。
第一次、第二次大戦中の食糧不足、飢餓の体験から、自国の民を養えるだけの食料を自給することに決め、農家の所得を国が保障してまでも農業を保護し自給率を上げる努力をしてきたヨーロッパの先進諸国。その結果、各国ともに大幅に自給率を上げている(もちろん、化学肥料の恩恵を受けながらではあるが)。
日本の食料自給率はカロリーベースで38%(令和3年度)だ。しかしこの自給率も化学肥料あってのことだし、畜産における飼料も輸入に頼っており、その飼料も化学肥料で作られたものだ。日本もヨーロッパ諸国に倣い、急ピッチで自給率を上げ、さらに石油に頼らない社会の実現に向けて、いよいよ本気で邁進するべき時がきているのではないか。
文 / 井澤裕子
【目次】
- 第1章 日本は何人養える?
- 第2章 飢餓はなぜ起きる?
- 第3章 大規模農業はすべてを解決するのか?
- 第4章 どうして石油が食糧生産に関係するのか?
- 第5章 混迷する世界と食料安全保障