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エコロジーテーマガーデン えこりん村

ここまでやる!?「びっくりドンキー」を展開する株式会社アレフの環境問題への取り組みが、本気すぎる理由

「企業は社会の中に存在し、社会の不足や不満、問題を解決することをもって、その存在根拠とする」

1968年に創業して以来、これを経営の大切な言葉として掲げてきた株式会社アレフは今、SDGsの実現に向けて飲食業界の先頭を走る会社の一つだ。

北海道札幌市に本社をおく同社は、ハンバーグレストラン『びっくりドンキー』をはじめ、全国に300店舗以上の飲食店を展開する外食産業。『びっくりドンキー』は、家族向けで親しみやすい雰囲気や利用しやすい価格帯から、ファミリーレストランとして位置付けられる。しかし、店舗から受けるイメージ以上に、同社の「食」の安全や、食を取り巻く環境問題への取り組みは本格的だ。

株式会社アレフのさまざまな取り組みを、実際に見て体験できる施設が北海道の恵庭市にある。エコロジーテーマガーデン 『えこりん村』だ。

えこりん村は今年、「第10回 みどりの社会貢献賞 特別賞」を受賞した。公益財団法人都市緑化機構主催のこの賞は、「良好な緑地管理や市民開放などによる社会貢献および生物多様性保全などの環境活動で顕著な功績が認められた企業」を表彰するものだ。

えこりん村を訪れ、株式会社アレフ管理本部で広報を担当される渡邊大介さんと、SDGs推進委員会委員長の高田あかねさんにお話をきいた。

北海道だから…とはいえ広すぎる! 150ヘクタールのテーマガーデン

広い牧場で牧草を食む羊たち。北海道らしい風景だ

150ヘクタールといえば、東京ディズニーリゾートの約1.5倍の面積。そのうち40ヘクタールが観光・体験エリア、110ヘクタールが生産・循環エリアとなっている。

観光・体験エリアには、四季折々の花が咲く「銀河庭園」や、牧羊犬と羊のショーなどが見られる「みどりの牧場」、1万5千個以上の実がなる「とまとの森」、キャンプ場やレストランなどの観光施設があり、全国から訪れる来場者を楽しませている。

レタスにカボチャ、ルバーブ、アスパラにリンゴやサクランボ、ハーブ類…野菜や果樹が美しく植えられているキッチンガーデンは進化系家庭菜園
毎年1粒の種から1万5千個以上の実ができる水耕栽培のトマトは、2013年に世界一大きなトマトの木として認定されている
えこりん村の広大な敷地。ウェルカムセンターで計画を立ててからまわるのが良い

一方、生産・循環エリアには牧場が広がり、多い時にはおよそ1000頭の羊、700頭の豚が放牧されている。また、生ゴミのリサイクルによる発電や液体肥料作りのプラント、家畜の敷藁と生ゴミ資材から堆肥を作る堆肥場などもある。渡邊さんに、施設内を案内してもらった。

豚や羊が広々とした牧場を駆け回る

衛生面から一般客が牧場に立ち入ることはできないが、豚や羊の放牧の様子は、ウェルカムセンターのパネルや、録画動画で見られる。雪原を楽しげに駆け回る豚のかわいらしい姿が印象的だ。

雪原を元気に走り回る放牧豚。ストレスなく健康的に育っている 写真提供:©︎ ㈱アレフ

アニマルウェルフェアの考えに則った飼育方法、ストレスなく育った羊や豚の肉は味も評判が良い。「こな雪とんとん」というブランド名がついた、えこりん村産の豚肉は、村内のレストランで提供されるほか、人気の加工商品になっている。

特産品を販売するウェルカムセンターのこな雪とんとんのコーナー。ジャーキーやレトルトカレーも人気
「森のレストラン Ten-Man」では「こな雪とんとんのローストポーク」が食べられる

こな雪とんとん:予定数量に達したため、2022年のえこりん村産豚肉の販売は8月26日で終了。10月現在は北海道産ブランド豚肉を提供中。

ビーフは放牧飼育100%!? びっくりドンキーのハンバーグにびっくり!

健康や食の安全を気にする人の中には、ファミレスを敬遠する人も少なくないかもしれないが、びっくりドンキーのハンバーグに使われている合挽肉の牛肉は100%、ニュージーランド産とオーストラリア・タスマニア産の「ナチュラルビーフ」だ。

「ナチュラルビーフ」は放牧で育て、穀物ではなく主に牧草を食べさせて飼育している。

管理を徹底せずに放牧すると飼育期間が長くなり、出荷までに飼育労力や環境負荷が増加する傾向がある。ニュージーランドやオーストラリア・タスマニアには、草を主体にしながら効率良く成長させる放牧技術がある。そのような産地を厳選し購入してきたこだわり。ファミリー向けのレストランチェーンの提供するハンバーグに、放牧牛が使われているということ自体、まさに「びっくり」である。

ナチュラルビーフを使う理由は、「牛の本来の姿だから」。同じ理由で一般的に使われる成長ホルモン剤や抗生物質も使われていない。国内のスーパーではほとんど目にしない売り文句。その飼育方法に目を向ける姿勢に驚く。

自然食レストラン並みのこだわり。「省農薬米」

えこりん村には、「ふゆみずたんぼ」という田んぼがある。「ふゆみずたんぼ」は冬期湛水(たんすい)農法のことで、稲刈りが終わった水田に、藁や米ぬかなど微生物のエサになるものを入れて、冬の間も水をはったままにする農法。土が発酵し、春には肥料たっぷりで、たくさんの生き物が棲む湿地のような状態になる。生物多様性を守る米作りも、株式会社アレフのチャレンジの1つだ。

ただ、冬期湛水は雪が多く凍結する北海道では難しく、現在では春先の早期湛水や一部の湛水維持を行い、子どもたちの農業体験などに利用されている。

全国のレストランで使っている米は、除草剤を1回だけしか使わない「省農薬米」(株式会社アレフのオリジナル名称)。これは、同社と契約生産者の方々が一緒に試行錯誤し、食の安全と、味、生産性などのバランスを考えてたどり着いた同社としてのベストな米だ。

レストランが米の作り方まで研究し実践する…自然食専門店並みのこだわりようではないだろうか。

生ゴミを1日で資材に変える、粉砕乾燥処理機

えこりん村内のレストラン横に設置された生ゴミ粉砕乾燥処理機を見せてもらった。生ゴミを投入すると、微生物の力で分解発酵し、翌日には水分が少ない発酵資材の「生ごみ資材」になるという機械だ。

同じものが全国のびっくりドンキーに約110台設置されており、資源化している。札幌近郊の生ゴミ資材は回収され、えこりん村に運ばれて、堆肥場で堆肥を作るのに役立てられるか、バイオガスプラントで有効活用されている。

全国のレストランに設置されている生ゴミ粉砕乾燥処理機「ゼロワンダー」。投入した生ゴミは、微生物の力で分解発酵させる
発酵した生ゴミ資材は、自社のトラックで回収する

堆肥作りが、地域に循環型農業を生み出す

えこりん村の堆肥場では、生ゴミ資材と家畜の飼育で出る敷藁を混ぜて攪拌、発酵させて堆肥を作っている。できた堆肥の一部は近隣の農家に使ってもらい、その堆肥で作った野菜などは、レストランの食材やウェルカムセンターで販売されるなど、えこりん村に戻ってくる。堆肥作りによって食をめぐる循環が生まれているのだ。

北海道以外の店舗の生ゴミ資材も、各地の協力農家が引き取って堆肥作りに役立ててくれている。生ゴミ資材には油分や微生物が含まれるため、牛の糞尿などに混ぜると短期間で効率良く堆肥を作れるのだそうだ。

堆肥場。微生物の力で発酵が進み、約半年かけて完熟堆肥を作っている。できた堆肥は近隣の農家が使用するほか、村内のガーデンセンター花のまきばでも販売している

エネルギーまで自前!

堆肥作りで驚くのはまだ早い。えこりん村は、バイオガスプラントまで稼働させている。

下の写真は、びっくりドンキーのハウスビールとして人気の「小樽ビール」。そのビール醸造所からでるビール粕(大麦)と、レストランからでる生ゴミ資材を合わせてメタン菌で発酵させ、バイオガスを生成しているのだ。

その量は1日に150リューべ(1リューべは1000リットル=1m3)。このバイオガスを発電機に投入して1日平均400kWh発電しており、えこりん村の事務所で使う電力のおよそ6割をこれで賄うことができている。さらに余剰分は電力会社に買い取ってもらっているという。

自社で製造する「小樽ビール」。ウェルカムセンターでも買える
バイオガスプラントの内部。投入量は1日2トン
メタン発酵後の液体肥料を貯めるタンク

1日2トンの原料を投入し、およそ30日かけて発酵する。発酵の終わった液はタンクに貯められ、窒素を含む液体肥料として活用されている。この液体肥料を適期に牧草地に散布することで、栄養価の高い草を育てながら収量を増やすことができ、羊のエサを自給自足するのに役立てている。

バイオガスプラントから出た液体肥料は、専用の車で牧草地に散布される 写真:©︎ ㈱アレフ

使い終わった食用油で動くトラクター

レストランで使い終わった廃油も無駄にはしない。バイオディーゼル燃料プラントで廃油からバイオディーゼル燃料を作り、施設内のトラクターや発電機を動かすのに使っているのだ。一部では一般家庭からの廃油を回収する取り組みもおこなっており、レストランの油と合わせて燃料化している。

エネルギーは、節約も大事

えこりん村では、「地中熱ヒートポンプ」によって、冷暖房に必要なエネルギーを低減している。地中熱ヒートポンプとは、地下約100mまで穴を掘ってU字型の樹脂管を埋め、その中で不凍液を循環させるシステムのこと。地中は外気に比べ、夏は冷たく冬は暖かい。この外気との温度差を利用して熱交換することで、エネルギーを節約しているのだ。

村内には、合計52本の地中熱ヒートポンプがあり、これによって、年間約87,000リットルの灯油と15,000kWhの冷房電力を減らすことができている。これは、CO2排出量に換算すると、約103トンの削減になっているのだという。

ホビットの家(!?)を思わせる。『森のレストラン Ten-Man』。ここにも地中熱井戸が14本ある

いろいろ案内していただいた、株式会社アレフのさまざまな取り組み。ファミリーレストランチェーンにしては、本格的過ぎるという感想を持った。同社がここまで頑張る理由はどこにあるのか。

その答えは、創業者の「食」に対する思いにあるようだ。

1990年代から始まっていた環境への取り組み

「食という漢字は「人」と「良」でできている。「食」は人を良くするものでなくてはならない。」これは、株式会社アレフ創業者の庄司昭夫さんが、いつも社員に語っていた言葉だそうだ。

良い「食」を提供するためには、良い食材を作らなければならない。良い食材を作る農業には、土や水や空気などの良い環境が必要。「食」と「農業」と「環境」、これらはすべて繋がっている。食産業としての使命を果たすには、環境のことまで考えなければいけない…。

SDGsが国連で採択されるずっと前、環境問題が今ほど取り上げられることがなかった1990年代、株式会社アレフの「良い食」を提供するための取り組みはすでに始まっていた。

その企業姿勢こそ株式会社アレフの原点であり、経営が引き継がれた現在も脈々と受け継がれ、えこりん村に見られるさまざまな活動の原動力になっているようだ。

株式会社アレフの「食」に対する考えが綴られたボード

SDGs推進委員会が立ち上がる

環境の課題解決に早くから取り組んできた株式会社アレフでは、2003年から社内に「環境マネジメントシステム推進委員会」を作り、取り組みを牽引してきた。しかし、昨年、この委員会は、「SDGs推進委員会」へと改編された。

新しくできたSDGs推進委員会の委員長を務めるのは、高田あかねさん。高田さんは、企画段階から「えこりん村」プロジェクトに関わってきた人だ。

えこりん村の構想段階で、創業者の庄司昭夫さんが、自然とつながり環境負荷を低減した地域や、海外のエコロジーセンターなどについて見聞きし検討していたときに出会ったのが高田さんだった。

SDGs推進委員会委員長 高田あかねさん

高田さんは、もともと、札幌市で都市計画やまちづくりの事業に関わっており、環境教育センターやエコビレッジなどの持続可能なコミュニティ研究のためイギリスに滞在して、C.A.Tなどを訪れて見聞を広めた。

「C.A.T」とはセンター・フォア・オルタナティブ・テクノロジーの略。1970年代にすでに「持続可能なテクノロジーとライフスタイル」を実践していたイギリスの集団であり、現在ではヨーロッパ最大の代替技術の中心的施設と言われる機関だ。

高田さんに、「環境マネジメントシステム推進委員会」が「SDGs推進委員会」に改編された背景を伺った。

解決できていない課題にも取り組むための組織改編

「世界的なSDGsの動きを受けて、課題の見直しや方向性を検討した結果です。先代の時代から積み上げてきた甲斐があって、食の安全や、食と環境などの分野では、目標に向けて進んできたものが多いのですが、国際基準としての目安がSDGsならば、自分たちだけの目標基準で安心するのではなく、SDGs の17のゴールすべてを目標にしようという方針が定まりました。それを推進するための組織改編です。」

苦手とする分野にもあえて挑戦しようとする姿勢に、同社のチャレンジ精神と、持続可能な社会に向けた取り組みへの意欲がうかがえる。

食の安全基準について聞く

早くから「食」の安全を追求してきた株式会社アレフは、どのような判断基準で食材や生産方法を選択しているのだろうか。

「例えば農薬など、お客様の不安をどうやって軽減することができるか…そのような模索は、農薬の安全性などの情報もまだ十分ではなかった1996年ごろから、すでにはじまっていました。ただ、選択の基準はとても難しいのです。人間は科学を発展させてきたけれど、100%わかっているわけではありません。農薬にしても、いろいろ調べていくと、全く使わない方がいいとは言いきれない面もあります。」

そう高田さんは説明する。

「新しい情報が常に錯綜し、煩雑で判断基準もあいまいになりがちな状況だからこそ、私たちは常に勉強し続ける姿勢が大事だと思っています。」

畜産、特に牛肉の生産が環境に負荷を与えていると言われることに対しては、「環境負荷が高いと言われていますが、生産方法をいろいろと工夫しているニュージーランドの生産現場に行き、実際にGHG(温室効果ガス)の算出量などを見て回ると、草を食べさせて高タンパクの肉を効率良く作る畜産などもあり、牛肉全てが環境負荷が高いと一概に言えないのではと感じます。同様に、代替ミートの原料になる大豆などの大量生産を見ると、必ずしも肉よりも良いとは言いきれないという気もします。遺伝子組み換えなどの問題もあるし。複合的に考えると何かを簡単に断罪することはできないと最近は感じています。」とのこと。

安全面や環境負荷の課題もあるが、価格面の課題もある。放牧牛の肉、農薬の使用を減らした米、環境負荷を低減して作る野菜…これら、高付加価値の食材は一般的に値段が高めだ。それでも使い続けられている背景には、生産者との情報共有や協力関係があるようだ。

「契約生産者とのつながりを大切にしています。こちらの情報や要望を正確に伝え、何ができて何ができないのかを明確にし、バランスの良い落とし所を一緒に見つけていくことが必要なのです。できた収穫物は定期的に購入します。その補償があるからこそ、契約生産者は、要望に応え協力してくれるという良い関係が保たれています。」

全国からの教育ツアー、受け入れ数は年間100校以上

えこりん村は、環境負荷低減への取り組みを実際に目で見て学ぶことができる、数少ない施設の1つであり、全国各地の学校から教育ツアーを積極的に受け入れている。その数は年間100校以上、人数にして1万人を超える。

株式会社アレフの環境保全に関する取り組みは、ウェルカムセンター内の展示コーナーで詳しく説明されている

自社でも、小学3年生〜6年生を対象とした「えこりん村学校」を開催している。毎年春にメンバーを募集「森」や「羊」「野菜」「お米」などテーマごとに4つのコースがあり、月1回集まって半年間、村内で行われる行事や作業を体験する。

実際に体験できる環境を提供できるのが私たちの強み、と高田さんは言う。

「次世代を担う子供たちに、農業体験や自然に触れたり、環境問題への取り組みを知ったり、といった経験をしてもらいたいと思っています。一般的な学校では環境が整っておらず難しいと思いますが、えこりん村には、羊や豚が放牧されているフィールドがあり、水田やガーデンもあり、堆肥を作る場所やバイオガスプラントなど、学ぶフィールドがたくさんあるので活用してほしいのです。」

昨年、北海道文教大学と包括連携協定を結び、今年から学生を受け入れている。大学にフィールドワークの場を提供して研究や実習などに役立ててもらい、株式会社アレフ側としては、将来に向けての人材育成という意味で期待を持っているのだそうだ。

詳細な活動内容や目標数値、評価がわかる「SDGsレポート」

株式会社アレフの「SDGsレポート2021」を見せていただいた。

そこには、2018年度から2020年度までの、SDGsの目標に沿ったそれぞれの活動と、その結果が具体的な数値とともに紹介されている。また、2021年度からの課題の分析や設定についても記されている。

株式会社アレフのSDGsレポート2021。毎年9月に1年間の活動結果をまとめたレポートを発行している
資料:©︎(株)アレフ

最新版(2022年度版)のSDGsレポートはコチラから

日本は2021年4月の気候サミットで、「温室効果ガスを2030年までに2013年度比で46%削減し、2050年までにカーボンニュートラルにする」ことを宣言しているが、同社では2020年度のCO2排出量は10,675トン。2013年度比が66.5%削減となっており、2020年度に関して言えば、すでに日本の掲げている数値目標を達成している。

資料:©︎ (株)アレフ SDGsレポート2021より

SDGsのゴールは多岐にわたっており、達成率は目標ごとに大きく違っている。レポートを見ると、「自分たちだけの目標基準で安心するのではなく、SDGsの17のゴールすべてを目標にする」という言葉のとおり、すべてに目標を掲げ達成しようとしていることがわかる。

2021年度以降の目標では、特に、多様な労働者への対応や、従業員の生活の安定など、今まで、制度への対応以上には踏み込めていなかった分野への取り組みを強化したい考えだ。

環境負荷を軽減し、持続可能な社会の形成に貢献するため、苦手分野の問題解決にも果敢に取り組む株式会社アレフ。今後の取り組みにもおおいに期待したい。

取材・文 / 井澤裕子

エコロジーテーマガーデン えこりん村

北海道恵庭市牧場277-4