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NPO植物工場研究会

未来の農業、食糧生産の一端を担う、植物工場への期待が高まっている

この施設は、平成21年(2009年)度の「農林水産省モデルハウス型植物工場 実証・展示・研修事業」でこちらに作られましたが、多くの民間企業や団体、教育、研究機関からなる「コンソーシアム」の支援と協力で成立したもので、施設の内部設備も、多くがコンソーシアムの負担で設置されているそうです。

つまり、農業の高齢化と人口減少によって日本の農業の未来が厳しい状況にあって、野菜等の食料を安定的に周年生産できる植物工場の普及が急務ということが、国、民間企業にかかわらず共通認識となっているということです。

しかも今の時代、生産性を上げるだけでなく環境負荷の問題を考慮しなければなりません。最小の資源とエネルギーで最大の収量を得るシステムを確立することがミッションなわけで、栽培や環境データの収集・蓄積を進めて「植物工場データベース」を構築し、植物工場分野の世界的開発拠点になることを目指している施設なのです。

また、ここで開催される勉強会や研修などに参加した多くの人が、サイエンス農業分野の頼もしい人材として育っているそうで、ノウハウを学べる場として人材育成にも貢献しているようです。

さて、前置きが長くなりましたが、現地に行ってみて施設全体の規模の大きさに驚きました。6つの太陽光型植物工場と3つの人工光型植物工場があり、それぞれ「生産性の増大・コストの縮減」に取り組んでいます。

株式会社大林組

はじめに見学させてもらったのは、株式会社大林組がリーダーの「植物生産工程自動化」の研究施設。かなり大きな建物で、12段の栽培棚の中でレタスが育っているのが確認できました。自動で苗を移植したり、作物を梱包したり、生産の自動化や省力化によるコストダウンを中心とした研究を行なっています。大林組は自然環境に負荷をかけない未来の農業を掲げた「高効率農業プロジェクト」を走らせており、過去には千葉県香取市において、現在はインドネシアでのミニトマト生産をスタートさせています。

大林組の植物生産工程自動化の研究施設。10段以上に重なったパレット
大林組の研究施設。作業中の様子をガラス越しに見られる
大林組の研究施設入り口に貼られた説明パネル。「生産コスト半減」と書かれている

ジャパンドームハウス(株)

次に、ジャパンドームハウス(株)の人工光型植物工場を見せてもらいました。ジャパンドームハウスは「発泡ポリスチレンを構造材としたドーム型建造物」として、国土交通省から認定を受けた会社で、機能性耐久樹脂を使ったドームハウスを開発販売しています。台風や大雪などによる倒壊の心配や、干ばつや日照りの心配もない農業用ドームハウスの実証実験をここで行なっているのです。

密閉空間なので、雑菌やウィルス、病害虫や他からの農薬、汚染大気などの侵入も防げ、無農薬栽培ができることも売りです。ただ、完全人工光植物工場はLEDの電気代がコストを押し上げてしまうようで、そこが課題のようでした。

ジャパンドームハウスの研究施設。高気密、高断熱の特殊発泡ポリスチレンのドーム
完全人工光栽培
ジャパンドームハウスの植物工場前の貼られた説明パネル

吉野家ホールディングス

吉野家ホールディングスが実証企業の「多段式栽培工場」も人工光型ですが、こちらは、いろいろな会社のLEDを使用することで、生育の差を研究しています。確かに、生育に差が出ているのが観察できました。研究施設ですが、ここでできたレタスは都内の吉野家で使われているそうです。

波長の異なるLEDを複数設置して、生育の違いを研究している
吉野家ホールディングスの完全人工光植物工場
吉野家ホールディングスの植物工場前に貼られた説明パネル

ここまで見てきて、作られている作物はレタスばかりであることに気がつきました。こちらは、あくまで研究機関なので、各施設で同じ種類のものを作ることによって、比較が容易になるとの説明でした。それもありますが、現状、植物工場生産のノウハウはまだまだ豊富ではなく、葉野菜、しかも高さを必要としないレタスがもっとも適しているとされているのです。この施設では、レタスと、トマト、イチゴが栽培され、トマトやイチゴは太陽光型の工場で生産されているようです。

太陽光型植物工場

太陽光型植物工場には、保湿・遮光カーテンの利用、光合成促進のための液化CO2ガスの利用、雨水利用、噴霧式の水耕栽培、再加工・再利用が可能な固化培土の利用、各種新しいタイプの栽培装置や養液管理スステムなどが導入されています。

三菱ケミカルアクア・ソリューションズ(株)の高品質トマトを栽培する太陽光型植物工場
雨水のタンク

また、太陽光型植物工場では周年栽培が基本なので、大量の苗が必要になります。そこで、各工場の定植日程に合わせて均質で低価格の苗を生産する「苗テラス」も開発されています。併設の「発芽施設」と併せて、安定した供給を行っています。

苗を安定供給できるシステムもできている

国内の人工光型植物工場は運営市場規模で、2019年の前年比142.2%。2020年前の年比は152.2%と、着実に伸びているようです。(矢野経済研究所プレスリリース記事よりhttps://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2504

また、コロナ渦での感染防止の観点から、袋詰めされていて衛生的なイメージの工場生産野菜の需要はさらに高まっているのではないでしょうか。衛生面以外にも、栄養素や機能性を栽培方法でコントロールでき、しかも、その栽培方法は、勘や経験によらない科学的データなので、広く共有できることから、今後ますます参入企業や団体が増え、市場は拡大すると見込まれています。

都会の建物の中に作る植物工場や、家庭の中に家具のように置く植物工場、レストランやコンビニなどの店舗と一体化した植物工場など、可能性がどんどん広がっており、今後も目が離せません。

取材・文 / 井澤裕子

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