Andew(アンジュ)
世界一やさしいチョコレートが社会を変える!
医大生が作るチョコレート、あるいは、表皮水疱症の患者でも食べられるチョコレートとして注目を浴び、数々のメディアでも取り上げられている「andew(アンジュ)」。
これは一体どんなチョコレートなのだろう。国家試験を控え、ただでさえ忙しい医学部生である中村恒星さんは、なぜ、このチョコレートを開発し、会社まで作ったのだろう。
どんな有名なショコラティエのチョコよりも今、一番気になるチョコレート(個人的に)の話を聞くために、札幌の中村さんを訪ねた。
目次
難病を患う人と知り合いたい。
2018年。ネットで「難病」というワードで検索する、北海道大学医学部2年生の中村さんがいた。
世の中には「難病」と呼ばれる病気が数多くあるが、治療法が確立しておらず、患者さんたちは、何かしら「困ったこと」「つらいこと」を抱えながらの生活を余儀なくされている場合が多い。ヘルスケアに興味を持つ中村さんの目的は、そういった人たちに直接会って、「何が大変ですか?」と聞くことだったという。
そんな中、たまたま出会った患者さんが患っていた病気が「表皮水疱症」だった。「表皮水疱症」は、少しの刺激でも皮膚や粘膜がただれたり、水疱ができたりする皮膚病だ。
患者さんの話から、症状が悪化している時は、口の中の痛みで、ものを食べるのに苦労していることを知る。
中村さんは、「この人にも食べてもらえるものを作ろう」と思い立ったそうだ。
医師という職業はそもそも、病気の人を助ける職業だと思いますが、なぜ敢えて食品開発に乗り出したのですか?
中村さん:
私は薬学部を卒業し、もともと薬の開発をしていましたが、患者さんと直接接することのない環境の中で目的を見失ってしまいました。「患者さんと直接向き合って役に立ちたい」という気持ちから、臨床医を目指して医学部に進学しましたが、医師としてだけでなく、患者さんが困っていることを解決するような「何か」をやりたいと思っていました。
医師になれば、とても忙しくなって、何か新しいことを始めようとしても、できない可能性があります。やるなら学生のうちに始めようと思ったのです。
なぜチョコレートなのか?
病気の方の栄養食というと、流動食や、おかゆのようなものを想像するのですが、チョコレートという食材を選ばれた理由は何ですか?
中村さん:
理由は3つあります。
1つ目は、表皮水疱症の方に食べていただくために、噛まなくても口の中で溶けて食べられる必要があること。表皮水疱症の方は、例えばポテトチップは、棘つきの板を食べているよう、と表現されるほど口の中が痛いそうなのです。
2つ目は、栄養をしっかり摂っていただくために、栄養素を補ういろいろな食材を混ぜやすい素材であること。1日に必要な栄養素の1/3の量を意識して原材料を決めています。
3つ目は、自分自身チョコレートが好きだから。自分が好きなものなら、開発や事業を進めるなかで辛い場面があっても頑張れると思いました。それにチョコレートは「世代を超えてみんなが好きなもの」ではないでしょうか。もちろん例外の方も一定数いるとは思いますが。
2019年2月に開発をはじめ、たった4ヶ月で商品が完成したそうですね。驚異的な速さです。
中村さん:
札幌市内のチョコレート専門店のご協力のおかげです。
お手本になるようなレシピがない中、私が自分で考えて選んだ、今から考えると、めちゃくちゃな原材料をお渡しして試作をお願いしました。はじめはとんでもない代物ができあがったのですが、そこから何度も試作して調整を繰り返し、最終的に4ヶ月で完璧なチョコレートに仕上げてくれました。
彼らがいなければ、今のandewは無かったでしょう。
「世界一やさしいチョコレート」の意味。
メインのお客さんは病気や高齢で食べることに困難がある方ということになりますか?
中村さん:
そのような方に食べていただけるチョコレートとして開発しましたが、実は、ご購入してくださるお客様は、そういった方の「隣にいる方」が多いのです。「隣にいる方」とは、家族や、友人や同僚など、その人の周りにいる方たちのことです。
販売を開始して間もないころ、「病気の方に」というコンセプトを敢えて言わずに、一般の方に商品説明をしながら対面販売していました。すると、「あ、病気の友人にプレゼントしたい」とか「硬いものが食べられないおばあちゃんが喜びそう」などという声がたくさん聞かれたのです。
自分の周りにいる「困っている人」を思い出して贈っていただける、そんな優しさを表現するチョコレートという意味で、andewは「世界一やさしいチョコレート」です。
先ほどの「なぜチョコレートか」という質問の答えは、実はもう1つあり、それはチョコレートの持つ“ギフト感”です。バレンタインデーの影響もあるかもしれませんが、チョコレートには「ギフトとして贈る側も嬉しい」という、特別な魅力があるように思います。
そして、一方的に贈るだけのギフトではなく、贈った人と贈られた人が一緒に楽しんで食べていただくために、このチョコレートは、普通の人が食べても十分に美味しいものである必要がありました。
困っている方に贈って、贈った人も一緒に食べていただけるチョコレート。
andew(=and you)は、「あなたと一緒に」という意味を込めて付けたブランド名なのです。
病気ではなくても食べものの制限がある人がいる。
原材料を見ると、病気の人以外にも、アレルギーを持つ人や砂糖、保存料や着色料など気にする人にも良さそうですね。
中村さん:
はい。病気ではなくても、アレルギーやヴィーガンなど、いろいろな理由で、食べるものに制限のある方も多いと思います。そういう方たちも含め、なるべく多くの人に食べていただけるようにandewは、乳や卵、小麦粉、白砂糖は不使用。保存料や着色料、香料も使っていません。
栄養価を上げるために、緑茶や昆布など、みなさんが予想しないような原材料も入っているんですよ。
andewのタブレットに含まれる栄養素はウェブサイトに掲載していますので、ぜひご覧ください。
チョコレートが社会を変革する!?
企業としての目標は何でしょうか?
中村さん:
世の中には病気でつらい思いをしている人がたくさんいます。そういう人たちがいることに周囲の人々が気付き、病気に対する理解が深まることで、お互いに優しくなれる社会。
私たちは、チョコレートの事業を通して、そんな社会になるように働きかけたいと思っているのです。
そして、私たちのチョコレートが、すでに小さなムーブメントを起こしているとも感じています。
「病気で食べることが大変な人がいる」ということを一般の方に知ってもらう機会が増えました。
そしてそのことを知った一般の人の中から、「困っている方に役立ててください」と寄付金をお送りくださる方や、病気を持つ子供の施設に、と多額の寄付をするYouTuberなどが実際に出てきています。
「食」は誰にとっても身近な関心ごと。だからこそ、私たちのチョコレートが社会に変革をもたらす一手になるのではないかと思っています。
目指すは“感動するチョコレート”
今後の課題などありましたら教えてください。
中村さん:
今販売している商品は、この栄養価にして、この口当たり、この味という意味で完璧だと思っています。しかし、「感動するチョコレート」の域に達するには、まだ改良の余地があるので、模索中です。
現在は社内のショコラティエや管理栄養士、スタッフと、味と栄養の両方を調整しながら、改良や、新商品の開発を進めています。
ガトーショコラやチョコレートチーズケーキも美味しいと評判のようですね。今後の新商品も期待しています。
取材・文 / 井澤裕子
株式会社SpinLife
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