楽しくて、ぐいぐい読み進める経済書です
牛丼1人前を作るのに必要な材料は、「牛肉100g、玉ねぎ70g、米250g、醤油10cc、砂糖小さじ1杯」…だけではなく、さらに「トウモロコシなどの穀物1.1kg、水560ℓ、耕地1㎡」が必要。これらは牛を育て、玉ねぎや米、牛の餌を栽培するための資源だ。
「食べる」という行為は、「自然資源の利用をどう守るか」という地球規模・人類の存続に関わる様々な問題とつながっている。この本は、頭ではぼんやりわかっていても、感覚として飲み込めていないこの事実を、上記の牛丼の例のように、経済の尺度を使いつつ、わかりやすく解説してくれる楽しい経済書だ。
危機感を煽るだけで終わらず、後半の1/3で、「持続可能性な未来に向けて、何をどのように考え、行動したらいいのか」という具体的な方向性や選択肢など、ヒントを示しているところがいい。
新しいテクノロジー、新しい流通や販売の仕組み、新食材、食品のラベルやパッケージに至るまで、人々が今まさに試行錯誤している数々の挑戦の内容も紹介している。畜産が環境への負荷が大きいことは知っていた。ただ、日本人は、欧米人に比べて肉を食べる量が少ないと安心していた。ところが、EATランセット委員会は提唱する「健康的で持続可能な食生活」のためには、日本人ですら肉を食べ過ぎだそうだ。牛肉は半分以下に、豚肉は1/5に減らさなくてはいけないらしいが、果たして私たちはこれを達成できるだろうか。
文 / 井澤裕子
【目次】
第一部 地球と食卓をつなぐ感覚
「食べる」と「食料生産」/食料市場が社会をつなぐ/食料市場の限界
第二部 飢える人と捨てる人
避けられない自然の摂理/市場が効率的だとしても/市場の失敗のせいで/つきまとう政治的な思惑/「人間らしさ」の難しさ
第三部 未来に向けた挑戦
自然の摂理に立ち向かう/食料市場の限界をふまえて/「人間らしさ」を加味する
第四部 未来をイメージする
これからの「食べる」について