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Book Review

地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて

著者:藤井一至(ふじいかずみち)

出版社:光文社新書

「NASA作成の火星再現“土”で農業に成功」というニュースに対し、(あえて)「地球の土も頑張っている」と対抗するのが目的、という前書き。

100億人に達するのも間近と言われる世界の人口を養える土はどれか。本書を開くとその答えを探す旅が始まります。

土壌研究の専門家による本ですが、調査に出かけた先での苦労話など、おもしろいエピソードを交えた文章に親しみやすい人柄が表れていて、楽しく読み進むことができます。

京都大学の裏山から出発して、北極圏から赤道直下までの、泥にまみれた実地調査の大冒険旅行に同行しているような気持ちにさえなりました。

世界中の土壌はたった12種類だといいます。
初めて知りました。とても身近な土の話なのに、そんなことも知らなかったのが軽くショックです。

12種類のうち、肥沃な土壌と呼べる土はチェルノーゼム、粘土集積土壌、ひび割れ粘土質土壌の3種類(土の名前は筆者がつけたニックネーム?)。そしてそれらは、地球上のごく限られた地域にかたまっています。

肥沃な土地を巡って、人類は何度も大きな戦争も起こしてきました。
世界の土と、農業、人口密度との関係、気候との関係…いろいろな関係性が解説されるなかで、「人間は土によって養われてきたのだ」ということを感じさせられます。

もともと肥沃だった土地はすでにめいっぱい活用されています。そして、もとは貧栄養だったにもかかわらず先進国の巨大資本によって牧草地や穀倉地帯になった、アフリカや南米の「オキシソル地帯」では、できた作物は先進国向け。現地の人々を豊かにするわけではありません。
経済格差、分配の問題などが複雑に絡み合い、食糧は平等に行き渡らないのです。

土は、よその土地に運ぶことができないし、簡単に増やすこともできません。

では、どうしたら世界の人口を養えるのか。

大資本に頼らず、スコップ1本でできる土壌改良をめざして、著者がたどり着いたのは、インドネシアの栄養分の乏しい強風化赤黄色土でした。
「自分の足元の土が何で、どんな特徴があるかを普及できればアイデアはいろいろなところからでる。足元の土にはまだまだ可能性と希望がある。」著者はそう確信しています。

日本は、農業大国になれるだけの肥沃な土を持っています。
感染症のパンデミックや他国の戦争によって、食糧の供給が大きく影響を受けている今、私たちがすべきことは、食糧自給率が低いと嘆くことではなく(それ以前に危機感を持たないでいる人も多いかもしれませんが)、肥沃な土を守りつつ、最大限に活用することを本気で考えることなのかもしれません。

まえがき
第1章 月の砂、火星の土、地球の土壌
第2章 12種類の土を探せ!!
第3章 地球の土の可能性
第4章 日本の土と宮沢賢治からの宿題

文 / 井澤裕子