株式会社タベルモ
藻食で未来を作る!?
バイオテクノロジーの会社が考える未来の食糧
藻を食べることで、持続可能な未来を作ろうという会社があります。東京都千代田区に本社をおく株式会社タベルモです。同社が生産・販売している藻、『スピルリナ』が実は今、未来の食糧資源として世界的に注目されているのです。
代表取締役COOの佐々木俊弥さんにお話を伺いました。
実は古くから食べられていたスピルリナ
スピルリナとはどんな藻なのですか?
佐々木さん:地球上に最初期に出現した光合成を行う原核生物※の一種で、35億年くらい前に誕生したといわれる藻です。あまり進化せず、そのままの形で現存した品種と言えます。
顕微鏡写真でバネのような螺旋に見えるのは、単細胞が数珠状に連なった形で存在しているためです。
※核酸(DNA)が膜に包まれることなしに分子状態のままで細胞質中に存在する原始的な細胞構造の生物
スピルリナは、どのような場所に生息しているのですか?
佐々木さん:アフリカや中南米の湖に生息しています。完全な淡水ではなく海水が取り残されてできたような、ミネラルを含んだ水の中で育ちます。自生地周辺では、古くから天日干しされたものが食糧になっていました。アフリカ大陸南部のチャド湖近郊では、カネンブ族の人たちが食べていることで有名です。食経験は実は古く、紀元前1000年頃のマヤ文明の頃から食べられていたという記録が残っています。
光合成する生き物を増やしたい!!
創業の経緯を教えてください。
佐々木さん:株式会社タベルモは、CHITOSE BIO EVOLUTION PTE. LTD.100%出資の子会社として2014年に設立されました。
CHITOSE BIO EVOLUTION PTE. LTD.が統括するちとせグループは、微生物や細胞、藻類、菌類などの力を借りたバイオテクノロジーで、現在の消費型社会から循環型社会に変えることを目的とした会社です。「タベルモ」の名の由来は「食べる藻」。私たち株式会社タベルモのミッションは、スピルリナでたんぱく質クライシスを解決し、未来の食文化を築くことにあります。
たんぱく質クライシスとは、今後予想される人口増加に伴って、食糧が不足し、中でもたんぱく質の供給が間に合わなくなる、という予測のことですね。そのミッションを叶える食材がスピルリナというわけですか?
佐々木さん:はい。肉を生産する畜産は、飼料分も含めて広い土地、大量の水と肥料を必要とします。資源・エネルギーも限りある中、畜産で賄えない分のたんぱく質源として、太陽の光、つまり光合成で育つ生き物を増やしたい。農作物も光合成で育ちますが、栽培には、やはり大量の水や肥料、そして広い農地が必要です。しかし地球上に農業に適した土地は限られているのです。
そんな中、水と光合成で育ち、大量の水や広い農地を必要としないものが藻類でした。そして、藻類の中でもたんぱく質含有量が多く、そのほかの栄養素も豊富で、しかも早く育つスピルリナに、私たちは着目したのです。
ちとせグループの事業により、微生物の扱いや細胞レベルの制御にアドバンテージがあったことも幸いし、スピルリナの培養技術や加工技術を開発することができたというわけです。
食べるSDGs
スピルリナが「食べるSDGs」であるというのは、どういう意味ですか?
佐々木さん:スピルリナの栄養価と生産性が、人と地球を豊かにするSDGsの目標に貢献すると期待されているのです。
まず栄養価ですが、スピルリナは5大栄養素をすべて含む60種類もの栄養素を持っています。中でもたんぱく質の含有量70%は、牛肉の40%前後、大豆の30〜40%と比べても飛び抜けて高い数字です。そのほか、ビタミンやミネラルも豊富で、さらに独特の濃い緑色には青色やオレンジ色の色素も重なっており、数種類の抗酸化物質が含まれています。
また、95%という高い消化吸収率も特長です。一般的な野菜は硬い細胞壁があるため40%くらいしか吸収されないのですが、細胞壁を持たないスピルリナの栄養素は95%も体に吸収できるのです。しかも、スピルリナは生育も早く、生産性の高い食物です。同じ広さの土地での生産性を試算すると、スピルリナは牛の300倍、大豆の20倍のたんぱく質を生産できます。
環境面では、どのようなことで貢献しますか?
佐々木さん:スピルリナはCO2と太陽光で光合成して育つので、食糧生産におけるCO2排出量を削減し、循環型農業が可能。脱炭素に貢献します。『tabérumo(タベルモ)』という、スピルリナが17g入った弊社の商品がありますが、これを毎日50g(約3袋)食べた場合、年間1.7kgのCO2を固定※した量になります。
※固定とは、CO2から炭素化合物を作って留めていくことで、大気中のCO2を減らすこと。
また、スピルリナは少量の水で栽培ができます。淡水不足が社会課題となっていますが、スピルリナは一般的な野菜に比べて1/20の水で栽培が可能です。
土を必要としないため、農業が難しいような荒れた土地や砂漠でも、水と光があれば栽培できることも利点です。農業と競合せずに生産可能なので、食糧の安定供給に寄与します。
日本初!生のスピルリナ
御社のスピルリナ『tabérumo(タベルモ)』はどのような商品ですか?
佐々木さん:生のスピルリナだということが、他社商品との大きな違いです。熱を加えて乾燥した粉末のスピルリナは、今までも国内で販売されていましたが、スピルリナを生のまま販売しているのは、日本では弊社だけです 。
乾燥スピルリナは独特の臭みを持ちますが、生のスピルリナは、ほとんど無味無臭。食べやすく、他の食材の味を損ねず、様々な食べ方を楽しむことができるため、個人顧客の利用にとどまらず、多くの飲食店でメニュー化され提供されています。
栄養価を損ねないという利点もあります。栄養素の中には加熱することで壊れてしまうものもありますが、生のままなので、栄養素を丸ごと摂り入れることができます。
御社のブルネイ国の工場について教えてください。
佐々木さん:2019年、ブルネイ国に敷地面積1haの工場ができ、生スピルリナの生産拠点となっています。ブルネイは赤道直下で日照量が多く、スピルリナの培養に適しています。
閉鎖型フォトバイオリアクター(Photo Bioreacter)というシステムを用いて、雨水や生物の混入を防ぎ、多すぎる光量も分散させて制御できるようになったことで、熱帯でも衛生的に、高い光合成効率で生産できるようになりました。
写真のように、水で満たされた細いガラス管の中で培養を行なっています。成長したスピルリナは、メッシュで漉されたあと急速冷凍し、冷凍されたまま輸出されます。
藻を食文化にしたい!
なるほど、未来の食材としてかなり有望ですね。今後の課題は、どういったところにありますか?
佐々木さん:とても優秀なスピルリナですが、価格が高いことが課題です。穀物と比較できるほどの大規模の生産事例が無く、スケールメリットが出せていないのです。ちとせグループの試算では、2000ha規模の工場を作ってはじめて600円/kgという価格が可能になり、様々な用途で事業性が出てくる見込みです。
増産するには、消費量が増える必要があります。そのためには、健康にも環境にも良い藻を食べる「藻食」文化を広め、皆さんにたくさん食べていただく必要があるのです。
馴染みのない食材なので、難しさもありそうですね。藻食を広めるために、どのような活動をされていますか?
佐々木さん:タベルモを使ったレシピを開発し、クックパッドに掲載したり、飲食店とのコラボでタベルモを使ったメニューを出していただいたり、お客様のSNSをフォローして関連投稿を紹介したりしています。また、企業の社員食堂を受託運営するシダックスコントラクトフードサービス株式会社さんとはコラボしており、タベルモを使ったメニューを開発していただき、受託している社員食堂で定期的に提供してもらっています。
御社の「スピルリナでたんぱく質クライシスを解決する」ミッションへの意気込みと取り組み内容がわかりました。本日はお忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました。
取材・文 / 井澤裕子
株式会社タベルモ
東京都千代田区神田錦町3-19-5 廣瀬第3ビル9階